呼称 | 罪悪の統治者 |
種族 | ヒューマン |
年齢 | 26歳 |
身長 | 172㎝ |
趣味 | 寝る前に強い酒を一杯飲むこと |
好きなもの (ナーラ失踪前) | 大量のお金 |
好きなもの (ナーラ失踪後) | 処刑する敵と裏切り者の体にバラの印を刻印すること |
嫌いなもの | ・裏切り者 ・血で靴が汚れること |
現在地 | ラスティ―アンカー |
現在の身分 | ブラッディ・マリーのボス |
関連人物 | 【友人】 |
CV | 塚田悠衣 |
誕生月 | 7月 |
※「HP・攻撃力・防御力」は上限が存在しないため記載しません。
※()内はPVPでのステータス
クリティカル率 | 46 |
命中 | 1075.78 |
回避 | 1055 |
魔法効力 | 0 |
魔法抑制 | 0 |
速度 | 37 |
自動回復 | 0 |
魔法耐性 | 20.31 |
物理耐性 | 11.5 |
吸収力 | 0 |
クリティカル増幅 | 0 |
クリティカル耐性 | 34.1 |
洞察 | 0 |
根性 | 68.69(100.54) |
治療効果 | 7.59 |
治癒 | 17.09 |
攻撃速度 | 0 |
クリティカル回避率 | 11.99 |
防御貫通 | 1 |
魔法貫通 | 0 |
熟知 | 0 |
受け流し | 0 |
腐食 | 11.67 |
緩和 | 0 |
ダメージ耐性 | 0 |
シールド効果 | 0 |
SP回復効率 | 0 |
Lv.1 | すべての味方に金色のバラを付与する。 金色のバラが付与された味方はそれ以降受ける5回分のダメージが50%減少し、さらにダメージを受けた時、攻撃者はソニアの攻撃力×80%分、HPを失う。 すでに金色のバラが付与されている場合は、その有効回数がリセットされる。 金色のバラの有効回数は最大5回までとなる。 |
Lv.2 | 以降受ける5回分のダメージが60%減少する。 |
Lv.3 | 攻撃者はソニアの攻撃力×90%分、HPを失う。 |
Lv.1 | 【パッシブ】 ソニアは花燼状態じゃない時、通常攻撃を行わず、周期的に自身のSPを回復するようになる。 花燼状態じゃない時に敵から攻撃を受けると、受けるダメージが20%減少し、攻撃者はソニアの攻撃力×70%分、HPを失う。 この効果は毎秒間に1回発動する。 HPが初めて60%より低くなると、ソニアは25秒間、花燼状態に入る。 花燼状態の時は戦場にいる任意の色のバラ1つにつき、ソニアは毎秒間、最大HPの2%を回復し、最大で毎秒間12%まで回復する。 |
Lv.2 | 花燼状態じゃない時に敵から攻撃を受けると、受けるダメージが25%減少する。 |
Lv.3 | 花燼状態じゃない時に敵から攻撃を受けると、攻撃者はソニアの攻撃力×80%分、HPを失う。 |
Lv.4 | 花燼状態の時、戦場にいる任意の色のバラ1枚につき、ソニアは毎秒間、最大HPの2.5%回復し、最大で毎秒間15%まで回復する。 |
Lv.1 | ソニアは最も弱っている敵の位置に黒いバラを配置する。 黒いバラは近くの敵に対してソニアの攻撃力×180%の範囲ダメージを与え、3回ダメージを与えた後、最も弱っている味方に自身が与えたダメージ量に相当するシールドを8秒間付与する。 シールド値は少なくともソニアの攻撃力×220%以上になる。 |
Lv.2 | 黒いバラは近くの敵に対してソニアの攻撃力×200%の範囲ダメージを与える。 |
Lv.3 | 黒いバラは近くの敵に対してソニアの攻撃力×220%の範囲ダメージを与える。 |
Lv.4 | ※解放には刻印レベル30が必要 黒いバラは同時にソニアと最も弱っている味方に自身が与えたダメージ量に相当するシールドを付与する。 |
Lv.1 | 最も弱っている敵に赤いバラを付与する。 敵はそれ以降5回までダメージを受けるたびにソニアの攻撃力×70%のHPを失い、その後、赤いバラはソニアのもとに戻る。 赤いバラがソニアのもとに戻った時にその敵がまだ生きていると、最大HPの8%を失うが、最大でもソニアの攻撃力×240%を超えることはない。 またソニアはその敵が失ったHPと同じ量を回復し、もしソニアが花燼状態の場合は、この回復量は本来の2倍になる。 このスキルは赤いバラを持っていない敵を優先して対象とする。 |
Lv.2 | 敵はそれ以降5回までダメージを受けるたびにソニアの攻撃力×90%分のHPを失う。 |
Lv.3 | 赤いバラがソニアのもとに戻った時にその敵がまだ生きていると、最大HPの10%を失うが、最大でもソニアの攻撃力×300%を超えることはない。 |
Lv.4 | ※解放には刻印レベル60が必要 最も弱っている敵2体に赤いバラを付与する。 |
初期 | 必殺技使用時、金色のバラが付与されている味方は追加でいばらのオーラを獲得する。 いばらのオーラは周囲一定範囲の敵に毎秒間、ソニアの攻撃力×110%のダメージを与える。 |
+10 | いばらのオーラは毎秒間オーラ携帯者に対してソニアの攻撃力×100%のHPを回復し、さらにダメージを与えるたびにオーラ所持者に与えたダメージの60%分、HPを回復させる。 |
+20 | いばらのオーラは周囲一定範囲の敵に毎秒間、ソニアの攻撃力×130%のダメージを与える。 |
+30 | いばらのオーラの範囲内に敵が2体以上いる場合、回復効果は80%増加する。 |
+40 | 「いばらのオーラ」の範囲内に2体以上の敵がいる場合、このスキルによるダメージが攻撃力×260%になる。 |
3/9 | 金色のバラが付与されている味方は敵から行動阻害効果を受けると、金色のバラの有効回数が1回増える。 この効果は5秒間に1回発動する。 |
9/9 | 戦闘開始時、後列の味方3体に必殺技「ゴールデンローズ」の金色のバラを付与し、金色のバラの有効回数は3回となる。 |
【ゲーム内説明】 ブライト王国のタンク英雄。 味方を守ると同時に攻撃を仕掛ける敵にダメージを与える。 |
登場時 | 弱いから、目の前の勝利に躊躇することになるのさ |
移動時 | アタシを裏切るのかい?すべてを失うことになっても知らないよ! |
通常攻撃 | 目に焼き付けておきな! |
スキル1 | —— |
スキル2 | 罪悪の花はいずれ返り咲く |
スキル3 | 見返りなしの救いなどないんだよ! |
必殺技 | バラ、それはアタシを称える賛美の花 |
勝利時 | 敗者の悔しみが染み込んだ酒でカンパイ♪ |
神話時 | 欲望とは、血塗られた罪深き土壌を切り裂くバラであり、私の武器である。 |
旅館 | お前の忠誠は見届けた、褒美を受け取るがいい。 |
※未実装
私は何年も前から、ソニアのことは知っていたんだーー
あの頃のソニアはまだ病弱で、私たちと一緒にラスティーアンカーのスラム街の暗い路地で生活をしていた。彼女の金色で長い髪は泥で汚れていて、ノミが這い回っていたけど、綺麗に三つ編みに結んでいた。
この犯罪にまみれた街で、ソニアと私たちは卑しい生き物のように盗みを働いては捕まり、殴られる日々……。時々、拾ってきた野菜をソニアに分けてあげると、お礼と言って盗んできたパンを渡してくれたんだ。こんなことを繰り返してるうちに、私たちはいつのまにか仲良くなっていた。
ソニアはすごく頭がよかった。ずっと貿易が盛んな港湾都市であるこの市場で生活していたからか、盗品の売買についてかなり知り尽くしていたんだ。
しばらくしてーー
私たちはナーラと知り合った。ナーラはスラム街一すばしっこくて、暴力的な泥棒だった。ソニアとナーラはすぐに意気投合して、最強のコンビになったんだ。まさかソニアがナーラと仲良くなれるだなんて……すごく意外だったんだ。でも2人が力を合わせて盗みをやると、絶対に捕まらなかった。だから殴られることもなかった。2人は盗んだものや、それを売ったお金を私たちに分けてくれた。だんだんと儲けが増えていっても、私たちはこのスラム街では最小の集まり。弱い私たちは、他のギャング団から恐喝されたり強奪されたりしてたんだ。
ある日の夜ーー
ソニアは私たちのところに来て、心の内を話してくれた。
「もうこれ以上……他のギャング団から舐められるのは嫌なんだよ……。アタシとナーラがどこにも負けないギャング団を作ってやる。そして、アンタたちやスラム街にいる孤児たちを守ってやるんだ!隠れて暮らすんじゃなくて、堂々と生きられるようにするさ!お腹いっぱい食べられるようにしてやる。アタシとナーラならできる。約束するよ」
ソニアの真剣な眼差しを見て、私たちはついていこうと決心した。
こうして『ブラッディ・マリー』というギャング団が設立し、私たちのホームとなった……。『ブラッディ・マリー』がラスティーアンカーで名を馳せるようになるまで、そう時間はかからなかった。ナーラの冷酷さ、残虐さは、たくさんのギャングに恐怖心を与えた。それはもう……仲間の私たちが見てもひどくて、敵じゃなくてよかったと思うぐらい。気づけば『ブラッディ・マリー』は、ラスティーアンカーのギャング団の中でトップに君臨するようになってたんだ。
血とバラーー
それはまさにナーラとソニアを象徴するものだった。殺戮を楽しむような、ナーラの非情なやり方は、この罪深き土地を自分に歯向かう者たちの血で染めていった。薄汚れた街の中でも凛と咲く一輪のバラのように美しいソニアの慈愛の心は、身寄りのない孤児たちを救った。
『ブラッディ・マリー』が莫大な利益を得るためには、安定した独自のルートを築き上げる必要があった。特殊な商品の取引が人気になってきた今、それが絶好のチャンスだったんだ。ナーラは賄賂を贈って、商品を略奪する海上のルートを確保して、港まで運ぶ役で、ソニアはそれを売り捌く役だった。2人の連携で大繁盛した『ブラッディ・マリー』は大儲けすることができた。
だけど、ソニアは気づいたんだ。闇取引をすればするほど、このルートが危険になっていくということに。彼女はずっと闇取引のルールを守ってきた。だけど、『ブラッディ・マリー』が大きくなっていくのと同時に、私利私欲のために他のギャングに情報を流すメンバーも出てきたんだ。ナーラと築いたこの秘密のルートがバレてしまうと、略奪されるかもしれない。他でもない、一緒にこのスラム街で育った、『家族』ともいえる仲間にだ。
ソニアの心配は現実のものとなった……。秘密のルートが他のギャング団に知られてしまったんだ。ナーラのおかげで、商品を奪いに来たやつは全員殺されたけど、情報を流した私たちの仲間は、敵対してるギャング団に寝返ってしまった。このことがきっかけで、仲間の心の中に疑惑が芽生え始めて、生死を共にした『家族』だったはずなのに、互いを信頼することが難しくなってしまったんだ。
ナーラとソニアが睨み合いを続けてる。最初はお互いの意見を言い合ってただけだったけど、気づけば火花を散らすほど対立していた。こんな2人を見るのは初めてだ。ナーラとソニアはいつも仲が良くて、喧嘩なんてしたことなかったんだ。ナーラの意見はこうだ。裏切り者は見せしめとして、全員処刑すると。対してソニアは、『ブラッディ・マリー』結成当初からいる『元老』と呼んでるメンバーを排除すればいいと言う。たしかに、初期メンバーの中には、傲慢で偉そうなやつもいる。連中は『ブラッディ・マリー』が築き上げた富に満足できず、組織の中でより大きな権力を求めていた。中には、新しいメンバーを引き抜いて、勢力を拡大しようと企むやつもいたんだ。ナーラ自身もそれはわかっていた。だから口を開いてソニアにこう言った。
「そいつらもまとめて全員処刑だ!」
「全員……?」
ソニアは同じスラム街出身の『家族』を自分の手で処刑することに躊躇していた。
「ナーラ……アンタは裏切り者のこと、よく調べないじゃないか!それに、無闇に殺すんじゃなくてさ……組織から追放するじゃ駄目なのかい?」
言い争いの末、ナーラは外に飛び出し、ソニアは黙ってしまった。これまでナーラとは重大な決断をする時、意見が対立したことがなかったから、自身の決断に迷っているのかもしれない。ソニアが迷う気持ちもわかる。彼女の中で、『ブラッディ・マリー』を結成した目的は、スラム街の貧しい者たちに安らぎの家を提供してあげることだった。だけど、それが実現した今、『家族』を追い出そうとしているのだから無理もない。
ーーナーラが行方不明になった。
いつものように出航したのに、ナーラと彼女の船団はいつまで経っても戻って来ることはなかったんだ。ソニアは、仲間を総動員して船団の捜索に当たったけど、何も見つからなかった。
ナーラの失踪は、他のギャング団からしてみれば、『ブラッディ・マリー』の片腕を失ったも同然だった。最大の脅威がなくなって、他のギャング団たちが私たちの取引に目をつけ始めたんだ……。それだけじゃない。『ブラッディ・マリー』内からも反逆を計画しているやつらが裏で動き出したという噂が酒場で広まっていたんだ。仲間全員がナーラがいなくなったことを心配してたわけじゃなかった。一部の『元老』の中には、この隙にソニアからリーダーの座を奪おうとするやつらも出てきたんだ。それを知ったソニアは、ものすごく悲しんで……失望した。ナーラがいなくなってしまった苦しみも重なって、ソニアはだんだんと非道になっていった。優しさを捨てたソニアは、まず『元老』を残忍な方法で処刑した。その次に反逆を計画しているやつらに精神的にも肉体的にも苦痛を与えて、『ブラッディ・マリー』から追い出し、スラム街に捨てた。薄暗い路地で盗んだパンを奪われて、涙を流していた泣き虫の女の子がまさかこんな残忍な仕打ちをするなんて……誰も予想してなかったと思う。ソニアの裏切り者に対する残忍な処刑はナーラ以上だった。もう誰も彼女に逆らうなんてしなかった。そしてこのことは、ラスティーアンカー全体に衝撃を与えたんだ。ソニアは誰にも『慈愛』を示さなくなった。私が一番驚いたのが、これまで彼女がスラム街から救ってきた孤児たちを『奴隷』として扱うようになったことだ。そう、つまり私も『奴隷』ということ。
「何か勘違いしてないかい?スラム街から救ってやったじゃないか。だったら、アタシの奴隷になるのが、筋ってやつだろ?お前のすべてを捧げるんだよ」
今のソニアは、優しかった面影がまったくない。彼女は金色の長い髪を短く切り、こめかみにバラの模様を刻印した。彼女は私に微笑むこともなくなってしまった。それどころか、私が裏切るんじゃないかって常に疑いの目を向けてるんだ。ソニアは私たちに信じろって言うけど、それに100パーセント応えることはできなかった。それでも彼女はひとりで『ブラッディ・マリー』を背負い、孤独を感じながらも投げ出すことはしなかった。『ブラッディ・マリー』が強くなれば、ナーラは必ず戻ってくる。彼女はそう信じていた。
ソニアはまるで茨のように咲く鉄血のバラのように、彼女が通った道には無数の裏切り者の死体が横たわっていた。彼女は過去への最後の善意を捨てて、権力の座に上り詰めた。『ブラッディ・マリー』はソニアとナーラが築き上げた帝国でもあるし、ソニアの野心と欲の器でもある。
私は彼女の人生をただ見てきた傍観者だ。ソニアのことを残忍だと言う人もいるし、偉大だと言う人もいる。慈悲深かったソニアはもういないんだ。今では自らの手を汚すことなく、『ブラッディ・マリー』に逆らう者を自由に処刑しているんだから……。
「欲望っていうのはね……血塗られた罪深き土壌を切り裂くバラで、アタシの武器でもあるんだよ!」
山のような大波がラスティーアンカーを出港した貨物船を襲い、転覆させた。船員たちの悲鳴は瞬く間に波に飲まれて消えていく。ナーラは目の前に倒れてきた桁を掴んでマストにしがみつこうとしたが、周りの船員たちに腕を掴まれ、そのまま海に引きずり込まれていった。腕にできた傷口に海水が触れて痛みを感じるも、それは一瞬だった。気づいた時には再び大波が襲いかかってきて、紅に染まった海が彼女の視界いっぱいに広がる。生臭い海水がナーラの鼻腔に染み込んでいき、息ができなくなる。
ナーラはそのまま意識を失ったーー
このような経験は小さい頃にもあった。幼いナーラは、ギャンブルで借金まみれになった父親と一緒にラスティーアンカーを逃げ回っては、臭いゴミ溜めの中に身を隠す日々を送っていた。下水や魚が腐ったようなその生臭さは、鼻に入り込んだ海水の臭いと似ていた。ナーラは父親に対して嫌悪感しかない。恥知らずのあの男は、借金を返して安心して暮らせるようにすると何度も何度も約束したが、それを果たすことはなかった。ナーラは失望したが、やがてその気持ちすら消えていったのだった。父親が借金取りに殺される中、ナーラはゴミ山に隠れてひたすら息を潜めて見ていた。ひどい臭いでだんだんと息苦しくなり意識が遠のいていく中で、ナーラはひとつだけ期待をした。きっと目覚める頃にはすべてが終わっていると……。孤児になったナーラは、スラム街を彷徨い、盗みで生き延びてきた。殴られるのは日常茶飯事で、残飯を手に入れるために野良犬と喧嘩することもあった。9歳であるにも関わらず、子供らしい純粋さはもうどこにもない。ナーラはカビの生えたパンのために狡猾で残虐になっていった。彼女の人生は、冷たくて暗い深海のようで、いつどこで誰に殺されるかわからない。そのため、ナーラはいつだって息を潜めることしかできなかった。誰かが救いの手を差し伸べてくれるなんて思ってもいなかったし望んでもいなかった。ソニアが現れるまでは……。
いつの間にか、腕の傷口に海水が染みる痛みが和らぎ、柔らかい感触を感じるようになる。ナーラは目を開けようと力を入れたが、どんなに瞼を上げようとしてもかすかな光しか見えない。だが、その光がだんだんと見覚えのある形に変わっていったのだった。ソニアがナーラに差し伸べた手だーー
2人の出会いは、暗い路地で盗みを働いている最中だった。同じ孤児であるソニアは、ナーラと出会う前からスラム街を彷徨っていた。彼女は聡明な頭脳の持ち主で、利益を得るためにあらゆる知識を身につけていたのだ。ナーラと比べると身体能力が劣るソニアは、捕まって殴られ、その場で死んでしまうという可能性があった。そのため残虐で横暴なナーラより慎重に動いていた。ある日……。お腹を空かせたナーラは、ラスティーアンカーのパン屋に来ていた。限界を越えた空腹は、彼女の判断力を大いに狂わせた。焼きたてのパンの香りが厨房の隅に隠れていたナーラの鼻孔をくすぐった瞬間、ナーラはパンを奪い取る衝動に駆られる。この腐った港町では、カビが生えたパンでさえ孤児にとって貴重なごちそうなのに、目の前にはどんなに欲しても手に入れることのできなかった焼きたてのパンがあるのだ。ソニアが初めてナーラと会った時、彼女はパン屋の店主に踏みつけられ、体が血と泥にまみれていた。こんな光景に慣れていたソニアは、店主が見知らぬ少女を叱りつけて気を取られている間に何か盗ってやろうと思っていた。だが、ナーラと目が合った瞬間、彼女は考えを変えた。ナーラの目は、助けを求めているかのようにも見えたし、人生を諦めたくないという強い意志があるようにも見えた。悔しさと絶望が入り混じった複雑な眼差しだったのだ。ソニアはパンを焼いている釜からまだ燃えている豆炭をこっそり掻き出し、路地裏の廃木材に投げ入れた。突然立ち上がった煙に驚いた店主は、慌てて火消しに行く。その隙にソニアは、焼き立てのパンを盗って虫の息だったナーラを担いで逃げたのだった。暴力と犯罪に満ち溢れたならず者の楽園であるラスティーアンカーでは、弱みを知られることはとても危険だ。だが、ナーラは最も弱っている姿をソニアに見られてしまったのだ。
(もしかしたら殺されるかもしれない……)
そんなことが頭をよぎりながらも、誰かが自分の弱さを見て手を差し伸べてくれることをナーラは心のどこかで期待していたようだ。これまでずっと1人で暗い路地を彷徨っていたナーラは、自然と口を開く。
「ねえ……一緒に行動しない?」
せめて本当の自分が俊敏で、殴られてばかりの弱い女の子ではないことをソニアに証明したかったのだ。2人の絆は出会った日から深まっていき、やがてナーラとソニアは『ブラッディ・マリー』を設立する。ナーラにとっては、その場所が心の拠り所となった。ソニアのものに帰れば、いつでも冷えた魂を癒す温かい手が待っていると信じて……。ナーラは命の灯火が消えかける時、自分が結局運命に逆らえない弱者だと悟った。その時の彼女は、差し伸べられた手を掴むことさえできなかったのだーー
ナーラはもう痛みを何も感じなくなり、瞳に宿る最後の輝きも褪せていった。彼女が見ている光景は、すべて死に際に見る幻にすぎないことを最初からわかっていたーー
今回の出航前、ナーラとソニアは激しい口論を繰り広げた。2人の主張は平行線で折り合いがつかず、とうとうナーラはソニアの腕を振り払い、ドアを壊して外に飛び出していった。それが2人の最後の会話だ。ナーラはソニアの『偽善』を理解できなかった。賢い人の考えは、本能でしか生きていけない無謀な人間にはわからないかもしれない。ナーラがソニアをいつも頼りにしていたのは、ソニアの知略と決断力が数々の脅威から『ブラッディ・マリー』を守り、退けていたからだ。ソニアは『ブラッディ・マリー』のためならなんでもしてくれると信じていたのだ。だが今回、2人の意見は分かれた。ソニアはナーラによく、現状に甘えるなと忠告してきた。組織のために彼女たちは多くの犠牲を払ってきたのだ。いつも全身に傷を負うナーラ、利益を得るために眠れない日々を送るソニア。組織のために、身寄りのない孤児のために、家族のために……。だが、2人が守ろうとする人々からすれば、それは独裁と残忍に見えたのだ。裏切り者の処置をめぐる2人の口論は、『ブラッディ・マリー』が苦境に立たされていると同義であることをナーラはわかっていたのだったーー
(アタシがもっと強ければ……裏切り者たちが『ブラッディ・マリー』に手出しできないようにできたはず……そうすればすべて元通りだったのに)
自分の体が沈んでいく海の中で何度も後悔した。だが、その時間は終わりだ。ナーラは目の前が真っ暗になり、潮に引きずられて海の底まで沈んだ。命が終わりを迎えようとした時、ナーラは突然『ブラッディ・マリー』の存続も裏切り者のこともどうでもよくなってしまった。ラスティーアンカーに……『ブラッディ・マリー』に……ソニアのもとに帰って、冷えた魂を温めてほしい……ただそれだけを願ったのだったーー
「眠りし殺戮者よ、お前は生まれ変わる。殺戮と略奪を恐れず我に仕えるのだ。そうすれば永遠の命を与えてやろう」
時が経ち……深海に響く囁きが海底に眠る冷たい魂を目覚めさせ、虚無の闇がナーラの視界を覆った。長い間、海の底で潮に揺られながら沈んでいた彼女にとって、その声は手足を再び動かそうとする力を持っているように感じた。かすかな光が差し込み、ナーラの瞳に輝きが戻る。だが、その光は朽ち果てた彼女の体と同じように腐りきった色をしていた。『帰りたい』というナーラの渇望が、死の世界の主を引き寄せたようだ。何か企みがある声としか思えなかったが、彼女は迷わなかった。何十日もの夜を海の底で過ごしたことにより、記憶が散り散りになってしまったが、ラスティーアンカーという場所に自分の帰りを待っている人がいることは覚えていた。永遠の命に対する代償があるのかないのかなんてナーラは気にしなかった。願いが叶うならすべてを捧げてもいいと思ったからだ。
「自分の居場所に帰るがよい。死から生まれた喜びをその身で感じるのだ」
岩礁によって砕かれた腕や、朽ち果てた体がもとに戻り、浮上していく。海面に近づくと、日差しが暗い海水を突き抜け、ナーラの冷え切った体を照らした。ふと懐かしい面影が海面の向こう側にぼんやりと映っているように見える。よく知っているような、知らないような手が差し伸べられているような気がした。ナーラは迷わずその手を掴もうとした。だが、そこには何もなかったーー
ソニアを知る人に言わせると、ナーラがいなくなってからのソニアは以前とはまるで別人のようになり、接しにくく、自分に逆らうものは容赦なく処刑した。ギャング団のボスが悲惨な人生を経歴したことはよくあることだが、ソニアはその出自や地位に似つかわしくない上品さと冷静さを備えていた。彼女の清楚な身なりと上品なマナーは彼女の本性を隠す絶好の保護色となっていた。まさかこんなにも上品な女性が血に染まった略奪者であるなんて誰も思わなかっただろう。しかし彼女の持つ純金の杖にはいつも血潮が付いていた。ナーラとともに裏路地で盗みを生計にしていた頃の暮らしは決して良いものでは無かったが、二人は運命に逆らうためには、運命よりも残酷でなければいけないということを教えられた。彼女たちは目的のためには手段を選ばず、ありとあらゆる方法を尽くして、ついにこの町でブラッディ・マリーを結成した。
ソニアはナーラと違い、暴力を好まない性格で、ナーラが仲間に暴力を振るうことに極力反対した。しかしナーラが失踪してからはその性格が一変して、非道残虐な行為を繰り返すことになった。彼女は相手の悲鳴や許しを請う姿を見ながら、心の底でうごめく欲望を満たし、その残虐性はますますエスカレートしていくことになった。
血に染まったバラと棘で飾られた黄金の杖は、常にブラッディ・マリーを守り、これがナーラを自分のそばに連れ戻してくれると、彼女は信じていた。
純金製のワンド。
トゲには奴隷の血が染み付き、バラの花が絡みついている。
無尽の守護が裏切りに終わるなら、バラには殺戮と罪しか残らない。
※未実装
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