呼称 | ・善良な看護師 ・憎悪の魔女 |
種族 | 【過去】 ヒューマン 【現在】 カタストロフ |
外見年齢 | 30歳 |
身長 | 168㎝ |
趣味 | 夫のために奉仕すること |
好きなもの | 夫と息子が好きな事全て |
嫌いなもの | 無視されること |
出身地 | ブライト王国のとある小さな村 |
現在地 | カタストロフの戦場 |
現在の身分 | 憎悪の魔女 |
関連人物 | 【夫】 |
CV | 斎藤千和 |
誕生月 | 3月 |
※「HP・攻撃力・防御力」は上限が存在しないため記載しません。
※()内はPVPでのステータス
クリティカル率 | 71.7(81.7) |
命中 | 1063.78 |
回避 | 1238.42 |
魔法効力 | 0 |
魔法抑制 | 99.2 |
速度 | 2.8 |
自動回復 | 0 |
魔法耐性 | 9.68 |
物理耐性 | 5.5 |
吸収力 | 14.2 |
クリティカル増幅 | 43.68 |
クリティカル耐性 | 9.1 |
洞察 | 0 |
根性 | 30.63(62.48) |
治療効果 | 0 |
治癒 | 0 |
攻撃速度 | 4.66 |
クリティカル回避率 | 15.7 |
防御貫通 | 14.46 |
魔法貫通 | 0 |
熟知 | 0 |
受け流し | 0 |
腐食 | 0 |
緩和 | 0 |
ダメージ耐性 | 0 |
シールド効果 | 0 |
SP回復効率 | 0 |
Lv.1 | 戦闘中初めて必殺技を使用した時、2つの骸の力を吸収して戦闘終了まで変身する。 変身後は自身の吸収力が40、SP獲得速度が50%上昇し、その後は必殺技を使うたびに自身の周りの敵に攻撃力×280%のダメージを与える。 |
Lv.2 | ダメージが攻撃力×300%に増加。 |
Lv.3 | ダメージが攻撃力×320%に増加。 |
Lv.1 | 10秒の間自身の周りを回る炎を作り出す。 炎は継続時間中0.5秒ごとに近接範囲内の敵に対して攻撃力×60%のダメージを与え、同時に敵の防御力を2秒間、15%減少させる。 この効果はスタックできる。 |
Lv.2 | ダメージが攻撃力×70%に増加。 |
Lv.3 | 炎が存在している時、ルクレティアの受けるダメージが20%減少。 |
Lv.4 | ダメージが攻撃力×90%に増加。 |
Lv.1 | 攻撃力が最も高い敵をマークして、死亡するまで追撃する。 追撃期間中、この敵の与えるダメージが30%減少する。 敵のチームにザフラエルがいる場合、全ての条件を無視してザフラエルをマークするようになる。 |
Lv.2 | 追撃中の敵に与えるダメージが40%増加する。 |
Lv.3 | 追撃開始から5秒間、ルクレティアの受けるダメージが20%減少。 |
Lv.4 | ※解放には刻印レベル30が必要 追撃開始から7秒間、ルクレティアの受けるダメージが20%減少。 |
Lv.1 | 前列に布陣した時、狡猾魔を発動させて自身の回避を50、根性を20増加させる。 後列に布陣した時、暴虐魔を発動させて自身の攻撃速度を15、クリティカル増幅を30増加させる。 |
Lv.2 | 前列に布陣した時、狡猾魔を発動させて自身の回避を80、根性を30増加させる。 |
Lv.3 | 後列に布陣した時、暴虐魔を発動させて自身の攻撃速度を25、クリティカル増幅を35増加させる。 |
Lv.4 | ※解放には刻印レベル60が必要 前列に布陣した時、狡猾魔を発動させて自身の回避を100、根性を35増加させる。 |
初期 | 戦闘中召喚物以外の味方が初めて死亡すると、毎秒SPが150回復する。 この効果は5秒継続する。 |
+10 | 召喚物以外の味方が死亡時、20秒間、攻撃力が30%上昇する。 この効果はスタックされ、それぞれの継続時間は単独で計算される。 |
+20 | 召喚物以外の味方が死亡時、20秒間、速度が8上昇する。 この効果はスタックされ、それぞれの継続時間は単独で計算される。 |
+30 | 召喚物以外の味方が死亡時、20秒間、攻撃力が50%上昇する。 この効果はスタックされ、それぞれの継続時間は単独で計算される。 |
+40 | バフ効果の持続時間が25秒になる。 |
3/9 | ルクレティアが合計1回必殺技を発動後、スキル「破滅の炎」がより強力な炎を作り出し、炎ダメージを受けた敵は全てのSP獲得速度が50%減少する。 |
9/9 | ルクレティアが合計2回必殺技を発動後、スキル「破滅の炎」がより強力な炎を作り出し、炎は消失しなくなる。 さらに炎のダメージを受けた敵は短時間必殺技を発動できなくなる。 |
【ゲーム内説明】 カタストロフのレンジャー英雄。 攻撃力が最も高い敵を追撃し、味方が倒れると能力がアップする。 |
登場時 | 神々は見ていないのではない。気になどかけていないだけだ。 |
移動時 | 神々に我らを見守る資格などない。 |
通常攻撃 | いつの日か、我が復讐に満ちた刃が貴様の心臓を貫くことであろう。 |
スキル1 | 我が悲しみこそが、この業火の薪火となる。 |
スキル2 | 死ぬまで止まらぬぞ! |
スキル3 | —— |
必殺技 | 我とともに、この偽善に満ちた世界をズタズタに切り刻もうぞ。 |
勝利時 | 見るがいい、この世は燃えたぎっている。 |
神話時 | 神々は見ていないのではない。気になどかけていないだけだ! |
旅館 | 非情、傲慢、残忍……これがいわゆる神と彼らが唱えている正義というもの。 |
※未実装
憎しみに取り込まれてしまったルクレティアーー
彼女に救いの手は差し伸べられなかった……。
ルクレティアは、とある貧しい家庭で生まれた。幼い弟と妹、母の4人家族だった。女手一つで育ててくれる母を少しでも楽にさせてあげようと、彼女は物心ついた時から仕事で忙しくしている母の代わりに、弟たちの世話をしていた。それでも、母がルクレティアにかまう時間はまったくなかった……。
彼女が初めてザフラエルに出会ったのは、雷雨の夜だった。ルクレティアの住んでいる場所はカタストロフによって荒らされ、母と弟、妹、全員殺されてしまったのだ。
薄ら笑いを浮かべているカタストロフは、徐々にルクレティアに近づいてくる。悲惨な光景を目の当たりにしたルクレティアは、恐怖と絶望に陥り、立ち上がることができない。
だが、その時ーー
暗闇の中に希望の光が差し込んだように、ザフラエルが兵士を連れてやってきて、彼女をカタストロフから救い出したのだった。13歳のルクレティアはまさに英雄に憧れを抱く年頃……。彼女の目には、キラキラとまぶしく輝く、魅力に溢れた理想の男性のように映ったのだ。帰る家もなくなり、家族も殺されてしまったルクレティアは憧れの英雄に近づくため、ザフラエルが指揮する軍隊に加入することを決意する。
ルクレティアが軍隊に入ってしばらくしてーー
カタストロフとの苛烈な戦いが続き、負傷兵が増していった。そのため、兵士たちの黒く焼け焦げた傷や、四肢が切断されている悲惨な光景に彼女も慣れていったのだった。そして……。ザフラエルへの憧憬も募りーー
彼が戦闘で傷つくと、ルクレティアは他の兵士たちよりも丁寧に傷の手当てをしてあげた。この勇敢な指揮官は、最前線で数え切れないほどのカタストロフを討伐しているため、傷が癒えないうちにまた新たな傷を作り出すということを繰り返していたのだった。
そんなある時ーー
ザフラエルが重傷を負って、ルクレティアのもとに担がれてきた時のことだった。傷の酷さに恐怖を覚えたルクレティアは、懸命に手当てを施し、ザフラエルが目を覚ますまで、ずっとそばにいた。ザフラエルはいつも戦争に赴いているため、なかなか近くにいることができない。ルクレティアは、眠っているザフラエルに自分の気持ちを告白すると、ザフラエルの目が覚めて……。この機を逃さないと意気込んだルクレティアは、勇気を出してもう一度、みんなの前で告白をする。身分の違いから、ルクレティアはいつも遠くからザフラエルを見ているだけだった。それゆえ、そばで彼を見守る妻になれるなど露ほど思ってもいなかった。だけど、ルクレティアは、少しでも可能性があるのなら、せめてザフラエルと恋人同士になりたいと考えていた。長年戦いに身を投じてきたことで、恋人を作るなど想像したこともなかったザフラエルは、彼女の突然の告白を断り切れず、受け入れてしまったのだった。
そしてーー
流れに身を任せるように、そのまま結婚することとなるが……。結婚しても2人の距離が縮まることはなかった……。
ザフラエルは1日の大部分をカタストロフとの戦争に費やしていた。そのため、ルクレティアは夫と一緒にいる時間がほとんどなく、昔と変わらず、ただただザフラエルの帰りを待つだけだった。しかし、彼女はそんな夫のことを不満に思ったことは一度もなく、毎晩神に夫の無事と終戦を祈っていた。この戦争が終われば、夫が家に帰ってきてくれる。そして、自分とお腹の中にいる子どものそばにいてくれる。そう思っていた。
しかしーー
無情にも、夫がもうすぐ神になるということを知らされるのだった。
神になどならず、この地に残ってほしい……。私とお腹の子のために……。
口を開いて、本心を告げようとするも、夫の敬虔な眼差しを見た瞬間、ルクレティアはその言葉を口にすることはできなかった。
神はなんて無慈悲なのだろうか……。彼女の願いを聞き入れなかっただけでなく、最愛の夫を永遠に切り離してしまうのだからーー
その後ーー
2人の間にできた息子を出産したルクレティアは、夫に対する愛をすべて息子に注いだのだった。
さらに数年後ーー
収まる兆しのない戦争から逃れるため、ルクレティアは子どもを連れて村を離れ、今よりも安全な村に避難した。
だが、彼女にふりかかる不幸の連鎖は止まらず……。
その土地に、子どもの生き血を吸う邪悪なカタストロフが潜んでいるとは夢にも思っていなかっただろう。
しばらくしてーー
カタストロフがこの世に誕生するための最期の生贄として息子が連れ去られてしまい……。
ルクレティアが絶望に落ちたその時だった。
彼女は懐かしい面影を見つける。十数年前の、あの雷雨の夜のように、ザフラエルが彼女の目の前に現れたのである。
涙ながらに助けを求めるルクレティアに対し、ザフラエルは、カタストロフの誕生を阻止するため、いかずちの槍を振り上げたのだ。
夫が息子に手をかけようとしているのを見て、ルクレティアは全身に衝撃が走り、必死に懇願する。
「私たちの子どもなのよ!? お願い……殺さないで!!! 助けて!!」
ザフラエルは踏みとどまるも、カタストロフの誕生が近づいている。
そして、ついにーー
ザフラエルは、カタストロフと融合してしまった息子にめがけて、いかずちの槍を投げつけた。
カタストロフの誕生は阻止したが、同時に自分たちの息子も灰と化してしまった。
それは、一瞬の出来事だった。
ルクレティアは、息子が最期に「お父さん」とつぶやいた声を聞いたような気がした。
かつて、ルクレティアはすべてをザフラエルに捧げ、尽くしてきたが、彼は自分のそばを離れていった。それでも彼女は、2人の間に生まれた息子を支えに生きてきたのだ。
だがーー
神はまたもや正義と言う名のもと、大切な人を奪い去っていった。ルクレティアの家族、夫、そして……愛する息子。神は彼女からすべてを奪い去ったのである。
ザフラエルの放ったいかずちによって虫の息となったカタストロフは、このチャンスを見逃さなかった。ルクレティアの内心から溢れ出る憎しみを感じ取ったカタストロフは、彼女の耳元で囁く。
「可哀想なルクレティアよ。神にとってお前や家族はそこらの塵の存在でしかないようだ……」
双生魔と呼ばれるこのカタストロフは、人の心を読み取り、誘惑させるのが得意だった。
「奴らは虫けらの絶望など関心を持たぬ。だが……お前が魂を私に捧げるなら、神にも匹敵する力を与えてやろう」
息子を生贄にした憎きカタストロフが、代わりの宿主を探していることに気づいたザフラエルは、空を雷雲で覆い始めて……。
彼が再びいかずちの槍を構えているのを知りながらも、神に対して憎しみが止まらないルクレティアは、カタストロフの誘いに乗るとーー
次の瞬間、カタストロフと1つになったルクレティアは、みるみるうちに皮膚が硬い角質に覆われていき、悪魔そのものの姿に変わっていった。彼女は身体の内側から憎しみの力がみなぎってくるのを感じている。特に、息子とともに生活した頃を思えば思うほど、力がどんどん強くなっていくようだった。出産時の痛み、息子とともに暮らした苦しい記憶、そして息子の死ぬ間際の蒼白な顔……。これらを思い出すたび、際限なく身体から力が溢れ出てくるのだ。
ルクレティアは復讐の刃を握った。そしてかつて自分が最も愛した者にその刃を向けてーー
「神は我の絶望に対して見て見ぬ振りをした。でも今回はどうかしら……?」
1、歴史の記録者
私の名前はエルボーーー
祖父はブライト王国大聖堂で歴史を記述する歴史家だった。
カタストロフとの戦争終結からもう40年経っている。今の平和な世の中も、かつて神々と各種族の先人たちによる大いなる犠牲との引き換えによるものだ。これら英雄たちの輝かしい偉業を記録するのが祖父の仕事だった。祖父の言葉によれば、偉大な功績を残した人たちは夜空に輝く星々のように、歴史という夜空に永遠と輝き続けるのだそうだ。私はかつて祖父の手伝いとして史料を整理したことがあった。だがその時、書物の中にいくつかおかしな記述漏れがあることに気づいた。
ーー……ブライト歴61年、冬。人間とカタストロフの戦争はもう30年もの間続いている。ほかの種族たちの協力はあれど、人間は未だにカタストロフに対し劣勢のままだ。女神デューラはエスペリアを救うべく、巨大な異空間を創り出し、カタストロフたちを隔離しようとしていた。ブライト王国の初代国王であるシレンは各種族の連合軍を指揮して、山々に侵入してきたカタストロフたちを退けた。後に、女神デューラは破滅の深淵を作り、大半のカタストロフを封じ込めるのに成功した……ーー
以上の文章は、祖父が整理した史料の内容を引用したものであり、戦争中である40年以上前にあった、数々の英雄の事跡を記載したものだ。
ただ唯一……。カタストロフに対抗し、多大な功績を上げたザフラエルに関する記述だけは見つけることができなかった。うっかりして記述漏れしていたとは考えられない。
まるで、誰かが意図してその記述を抹消したかのよう……。
祖父が他界してから、私は世界各地へと赴き、ザフラエルに関する言い伝えや功績を集めていたが、まったくといっていいほど、成果がなかった。
私は祖父のかつての旧友である、ブライト大聖堂の歴史家と聖職者にも接触した。しかし彼らも同じく、この事に関しては固く口を閉ざしたのだった。欠けたパズルのピースは、このままずっと歴史の中に埋もれてしまうのではないかと考えていた。
ーーそう、あの人に会うまでは。
王国最西端には小さな町がある。そこからさらに西へ進むと、ひと気のない荒野が続いているという、旅人が休息するにはうってつけの町だ。私は短い冬の時期を、この町の旅館で過ごしていた。
この旅館のロビーでは、夜になると、芳醇な酒と焼けた肉の香ばしい匂いが漂う。私は日課のようにヴァイオリンを奏でながら歌を歌っている。私が歌うそのほとんどは、ブライト王国の偉大なる王、シレンの物語だ。あの戦争が終結してから、この偉大な英雄譚をエスペリアの各地に広めている。
いつもより早く夜の帳が下りたある日ーー
この小さな旅館には、初めての客がよく訪れる。そのうちの1人である、旅人であろう老人が私の向かい側に座った。老人は黒みがかった深い紫色の帽子で顔をしっかりと隠している。わずかに白い髪だけが見えていた。最初はあまり気に留めていなかったが、私が演奏を終えると、酒を奢ってくれた。そしてゆっくりと、今まで聞いたことのない物語を語ってくれたのだったーー
2、老人の話
語られた内容は、ザフラエルに関する物語だった。
40年前のある日ーー
銀雪平原でシレンの率いる各種族の連合軍とカタストロフとの間で激しい遭遇戦が起きたそうだ。この戦いに乗じて、難攻不落と謳われた連合軍の拠点であるインディスト要塞を、とあるカタストロフが襲撃したようで……。
「駐屯軍は致命的な打撃を受け、主教のハイントも殺された……。インディスト要塞が陥落すると、ザフラエルととあるカタストロフとの噂がまるで疫病のように広まったんじゃ」
インディスト要塞陥落は史料にも詳しく記録されていたが、私はこのような噂が広まっていたことまでは知らなかった。
「どのような噂だったんですか?」
旅館の隅に置かれていたろうそくの灯りが、一瞬消えかかる。そして、静かに蝋が1滴垂れ落ちていった。
「……ザフラエルは、かつてこのカタストロフをわざと見逃したという噂じゃ」
これを聞いて私は首を傾げた。聖堂の記述によると、ザフラエルは公正無私で決して悪を許さない神であったとされる。
(そんな彼がどうしてカタストロフを……?)
だが、私は思ったことを口にせず、そのまま老人の話を聞き続けることにした。噂はどんどん広まり、共に戦い、挑み、命を落とした兵士たちの親族でさえ、ザフラエルを信用しなくなっていった。それどころか、一部の者たちはザフラエルにインディスト要塞陥落の責任を負わせようとしていたという。
「噂がどこから広まったのかはわからんが、連合軍の人々は団結しなくなり、次第に神に対して疑いを持つようになったんじゃ。そして一度火がつくと、その勢いは誰も止めることができぬ。偉大なる王シレンもインディスト要塞の陥落で12歳の息子マルスを失っていたんじゃが、それでも王はザフラエルを信じて疑わなかった。どうやらインディスト要塞を襲撃した例のカタストロフはザフラエルの全てを知っていたようでな。この機会を利用しようとしたんじゃ」
老人はここまで話すとしばらく口を閉ざした。インディスト要塞陥落の記録にはこのカタストロフの存在は記載されていない。
(いったい誰なのだろうか?)
思わず前のめりになり、老人の顔を伺った。まだほんの少ししか話していないが、私はこの老人の物語に興味津々だった。
「その後については知ってのとおり『凍てつく谷』で最後の決戦じゃ。これは連合軍最後の作戦じゃった。カタストロフたちをすべて『凍てつく谷』に誘い込み、女神デューラが封印する。この作戦にシレンは自ら囮となり、カタストロフたちを誘い込んだんじゃ」
……熾烈な戦いだった。数百にものぼる英雄たちの血で谷は赤く染まり、カタストロフたちの怒号は谷中に広がった。奴らは人間の兵士を切り裂き、鎧ごと踏み潰していった。カタストロフたちは、これまでの数倍にも及ぶ力を使って谷中のすべての出口を塞ぎ、シレンと部下たちの退路を断った。連合軍の部下全員が倒れ、最後にシレンと2名の護衛のみが残った。この時デューラが創り出した破滅の深淵がついに完成し、増援にたどり着いたザフラエルがシレンを救出したのだ。
「シレンは自分の命を引き換えにして人間に勝利をもたらそうとしたんじゃ。だが、ザフラエルはシレンこそが新生ブライト王国を導くにふさわしいと考えた」
ザフラエルが現れるところにはいつも例のカタストロフの姿がある。しかし今回は、シレンに用があったようで……。そのカタストロフは1匹の怨霊のような姿でシレンを攻撃したという。ザフラエルが攻撃を防ごうとしたが間に合わず、シレンは重傷を負ってしまった。
偉大なる王シレンの生涯のことは以前書籍で読んだことがある。彼はカタストロフとの戦闘で全身傷だらけになり、さらには左目を失ったということも書かれていたが、彼がこのような目に遭っていたということはどこにも記されていなかった。
老人は話を続けた……。『凍てつく谷』の臨界点に近づいた空間エネルギーは小規模の爆発を起こし始め、破滅の深淵に近づくカタストロフはどんどん引き込まれていった。ザフラエルと、そのカタストロフは破滅の深淵のすぐ近くで決戦を繰り広げていた。ザフラエルの雷鳴が谷中に鳴り響けば、カタストロフの刃は襲ってくる雷雲を次々と切り裂いていく。
「目的は私なのだろう」
雷雲の中で叫ぶザフラエルの声は低く、少し震えていたようだった。
「マルスは……まだ幼い子どもだった……」
「なら、オーウェンは?」
カタストロフの顔は怒りのあまり少し歪んで見えた。その目は残忍さと狂気が満ちている。
あれは激しい死闘だった。雷霆の力を操る神と、復讐の刃を手にしたカタストロフはどちらも相手を本気で殺そうと思っていて、互いに致命傷を負わせるような攻撃を繰り返していた。だが、カタストロフが単身で神に敵うはずもなく……。決定的な一撃を受けたカタストロフは、膝から崩れ落ちた。ザフラエルはカタストロフの前に立ちはだかる。あとは手にしている、いかずちの槍でカタストロフの胸を貫くのみ。だが、ザフラエルはまたもや躊躇している。すると、カタストロフの周りを飛んでいる2人の怨霊が目の前の神を嘲笑い始めた。
「雷霆の神よ、見ろ……。いったい誰がこいつをこのような化け物に変えたんだ? これが神の言う正義なのか?」
「……オーウェンのことは、悪かったと思っている」
ザフラエルは嘲笑を無視し、怨念に満ちたカタストロフの両目を見て話す。いつもの威厳ある声が、少し枯れているようだった。
「もう一度、やり直せたとしても、私たちは……きっと同じことを繰り返していただろう……」
ポツリポツリと語りかけるように、ザフラエルは言葉を紡いでいく。そしてーー
「だが……ルクレティア。君と私は……過ちの中に囚われている……。共に……終わらせよう」
ザフラエルの手に持っていた槍が光り出す。どうやら決意をしたようだった。彼は後ろを向き、シレンに最後の別れを告げ、カタストロフの前に向かっていった。相手の刃が彼に振り下ろされたが、彼は相手を両腕できつく抱きしめ、共に破滅の深淵へと落ちていった……。
その直後ーー
空間エネルギーが大爆発を起こし、『凍てつく谷』の大半が瞬時に破滅の深淵へと吞み込まれていったのだったーー
「…………」
物語を聞き終えても、私は頭を殴られたようなショックが全身を貫き続いていた。少しばかり間を置いて、私はゆっくりと口を開いた。
「あ……あなたの話が正しければ……。もし……もし、ザフラエルがいなかったら、偉大なる王シレンも……『凍てつく谷』で戦死していた、と……? このようなことが、どうして今まで、隠されていたのです……?」
老人は私の質問には答えなかったが、彼の視線の先には多くの祈りを捧げている信者がいた。ここ数十年間、ブライト大聖堂の名声はこれまでとないものになっていて、その影響は王国の隅々まで行き渡っている。ここのような辺境の町にも多くのブライト教の信者が存在しているのだ。
「あんたの歌はとても澄んでいるのう……」
老人の声は少し恍惚としていた。
「ザフラエル……。あいつはわしの会った中で1番敬虔な信者だったよ。彼もまた自身がやるべきことをやっただけ。ザフラエルの功績は本来なら人々に忘れ去られるべきではない……。だが、聖堂の名誉は真っ白な燭台のような存在。いかなる汚点もあってはならぬのじゃ。神であるザフラエルは人間を虐殺したカタストロフを見逃した。だが、彼もどうすることもできなかった。そのカタストロフはルクレティア……。かつてはザフラエルの妻だった者なんじゃ」
テーブルの上のろうそくは燃え尽き、老人も酒を飲み終えた。彼はテーブルに銅貨を2枚置き、立ち上がった。
「待ってください!」
私はふとある問題に気づいた。
「あの時のことはシレン王と2人の護衛のみ目撃したはず……。どうしてあなたはそこまで詳しく知っているのです?」
老人は何も言わずゆっくりと旅館の出口に向かっていく。旅館のドアが開き、朝日が差し込んでくるとーー
帽子に隠された老人の顔が見えたのだ。その表情は、老人とは思えないぐらい凛々しく、強靭な眼差しをしていた。そして1番印象に残ったのは、左頬から左目にかけての長い傷跡だったーー
3、後世の人たちへ
人はやがて年老いて行くが、英雄の物語はいつまでも語り継がれる。私に残された時間もそう長くはない。身体の衰弱とともに、私も旅を続けることができなくなっていった。
……ペンを手に取るも、老人から聞いたザフラエルの物語と考察を記録すべきか躊躇している。このことは歴史書に記録されることはないだろう。だが歴史に否定されても、夜空に輝く星のようにいつまでもどこかで輝き続けると私は信じているーー
ルクレティアはかつて小さな村に住むごく一般の少女だったが、英雄の姿で目の前に現れたザフラエルに一目惚れしてしまう。自分が一人の英雄を愛する事以外、何も持っていないことを彼女はよく知っていたが、それでも英雄の後を追い求めた。しかし彼女が心から愛していた英雄は神という存在に近づきすぎていた。神は人間と違い一切の欲望を持たず、より大きく崇高な目的のために存在する。人間の愛情など、彼にとっては取るに足らないものであった。
このような人を愛してしまったことが、悲劇の始まりだった。
ルクレティアにとってザフラエルの妻になることはこの上ない名誉なことだった。ザフラエルがいかなる崇高な目的や理想を持っていても、自分はただ後ろで夫の支えになればいいと思っていた。しかし彼女が求めていたのは求められ、大切にされ、愛されたいという人間の愛情であり、ザフラエルはルクレティアにそんな愛を与えることはできなかった。夫が神になると、その感情は息子に移り、息子を一人で6年間育てた彼女にとって息子は人生のすべてであり、唯一の支えであった。
神となって帰ってきた夫に希望をすべて打ち砕かれ初めて、ルクレティアは悲しみの中、自分はザフラエルとは相容れない存在であると悟った。神となったザフラエルとは家庭、地位、生い立ち、さらには考え方までが自分とまるで違うことに気づいた。はじめから自分が一方的にザフラエルを追い求めていただけで、ザフラエルにははじめから自分に対する感情などなかったのだ。
ルクレティアはカタストロフの囁きに惑わされてしまう、いや、或いは目が覚めたというべきか。私が人間だった頃、誰も私の感情など気にしてなかった。それならば、私は神々の敵となり、誰もが無視できない存在となろう!
カタストロフと同時に誕生した復讐の刃、燃え盛る恨みによって錬成され強靭な刀身を持っている。
握りの部分には銅製の飾りがあるが、千年前にブライト聖堂のテンプルクレリックが身につけていたお守りと同じ形をしている。
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